メッセージ:03
官民連携で子どもたちの未来を育むプログラミング教育
(取材:2020年7月)

(前列右)
北田 千秋 交野市教育委員会 教育長
1982年寝屋川市立第五中学校教諭(社会科)に着任。寝屋川市、交野市の中学校教諭を経て、2002年に交野市教育委員会 学校教育部指導課 指導主事に就任。
2010年大阪府教育委員会教職員人事課管理主事、2012年交野市立第二中学校校長、2013年交野市教育委員会 学校教育部長、2018年交野市立交野小学校校長を歴任後、2019年4月より現職。
(前列左)
小坂 光彦 (株)ミマモルメ 代表取締役社長
1994年阪神電気鉄道に入社後、情報システム部等にてシステム開発、スルッとKANSAIにてPiTaPa多機能化の企画開発、社長室にて経営管理、M&A等に従事。
2010年にミマモルメ、2015年に読売テレビと共同でプログラボを社内ベンチャーとして起業。
2017年10月に阪神電気鉄道から(株)ミマモルメを分社化し、2018年4月より現職。
(後列中央)
丸岡 大知 (株)ミマモルメ 教育事業部 交野市教育委員会プログラミング教育導入支援担当
2011年養護教諭1種免許状、幼稚園教諭1種免許状、保育士資格を取得。
公立高校、支援学校にて養護助教諭として勤務後、2017年4月よりプログラボ香里園の室長として教室運営に従事。
併せて交野市教育委員会プログラミング教育導入支援担当として、教職員研修やカリキュラム作成等に従事する。

小学校では2020年度から、中学校では2021年度から「生きる力 学びの、その先へ」と題した新しい学習指導要領が施行されます。
これからの社会が、どんなに変化して予測困難になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしいとの趣旨のもと、外国語学習と並んで重要視されているのが「プログラミング教育」です。
今回は全国に先駆けプログラミング教育を推進されてきた交野市教育委員会 教育長の北田千秋さんを迎え、プログラボを教育現場に導入された経緯や今後の展望についてお話を伺いました。

交野市の教育の柱として、プログラミング教育を推進

――交野市ではいち早くプログラミング教育の準備に着手し、プログラボと導入支援を締結されましたが、その内容について詳しく教えてください。

北田:プログラボさんには2017年度から、市内の全小・中学校(小学校10校、中学校4校)でロボットプログラミングの授業を実施していただいています。
2020年度から小学校でプログラミング教育が必修になりましたが、一部のパイロット校だけでなく全ての学校での導入を実現できたのは全国でも相当早い時期になると思います。
中学校では時間が取れない学年もありますが、小学校では2017年度に5,6年生を、2018年度からは3~6年生を対象に1学期に1回ずつの頻度で各学校を回ってもらっています。

小坂:講師は主に丸岡が務めていますが、この3年間で交野市の小・中学生約3,000名に授業を実施したことになります。

北田:最終的には教職員が授業を行える体制にしていきたいと考えていますので、プログラミング授業の実施だけでなく、「教職員へのプログラミング教育研修」を市内全小・中学校で実施していただいたほか、小・中学校9年間を通じたカリキュラム作成もお願いしています。

――交野市が全国に先駆けてプログラミング教育を推進された理由は何ですか?

北田:交野市では、小学校から中学校への円滑な接続を目指した小中連携教育により、義務教育の9年間で子どもたちの学びを育てようという取り組みを2010年度から行ってきました。
その上で、「言語活用力の向上」「外国語教育の充実」、そして、この「プログラミング教育の推進」を学びの3本柱にした小中一貫教育に取り組んでいます。これからの時代は、子どもたちが自分で考えて工夫し、学びに向かう力を育み、問題解決する力が求められます。
プログラミング教育はそういった力を付けるために非常に重要な教育だと考えています。

――当時の交野市のプログラミング教育はどういう状況だったのでしょうか?

北田:2020年度から始まるプログラミング教育必修化を見据え、交野市ではその4年前から進め方を模索してきました。
というのも、中学校では以前から技術の分野でプログラミング学習に触れる機会があったのですが、小学校ではそういった経験がなく、「小学生が楽しく学べて、さらに小学校教員が取り扱えるものはないのか?」と調査していたんです。
私は当時、学校教育部長だったのですが、新聞で偶然プログラボさんのことを知り、指導主事全員にその教室に出向いて体験してくるよう指示を出したんですよ(笑)。
実際に体験した指導主事たちからの評価も高かったことから、このような提携が実現しました。

小坂:2017年1月に5名の指導主事の先生方が大阪市内のプログラボ野田阪神にお越しになりました。
あの時のことは今でも鮮明に覚えているのですが、年齢も教えておられる教科もバラバラな先生方でしたのでロボットの動きにそれぞれの個性があふれ出ていました。
プログラボの体験会で実施している〈火星に宇宙飛行士を届けよう!〉というミッションに取り組んでいただいたのですが、ある先生は細かい設計図を書いて緻密に計算しながら取り組んだり、他の先生はプログラムをひとつ修正するたびにコースを走らせて豪快に壁にぶつけながらさらに修正していったり…。
プログラミング教育が「一つの正解を求めるのではない」ということを実感していただけたように感じました。

北田:プログラボさんがロボットプログラミング教育を軸に事業を展開されていることもパートナーとしての安心感につながりました。
「これなら子どもたちが楽しみながら学べるぞ!」と思いましたね。

子どもたちが仲間と協力し合い、考える力を育む授業を目指して

丸岡:交野市で使っているカリキュラムは、プログラボのオリジナルカリキュラムを学校用にアレンジしたものです。
当然ながらプログラボの教室には「ロボット大好き!」、「プログラミング大好き!」な子ども達が通ってくれていますので、そういった要素になじみのない子ども達も大勢いるなかでの授業は難しいかもしれないと思っていました。

北田:私自身何度も授業を見ていますが、子ども達が自ら考えて積極的に取り組めるよう工夫してくれています。

丸岡:コンピューターやプログラミングに苦手意識があるお子さんもいらっしゃるので、一つひとつの課題をスモールステップで乗り越えやすいよう設定し、どんなお子さんでも達成感を得られるよう工夫しています。
また、この学びを他の教科でも生かせられるようなカリキュラムを考えました。例えば、小学3年生で小数点を習うのですが、学習前は小数点を使わずに「1、2、3…」といった整数でプログラムを作成させます。
すると、目的地にピッタリ着かないんですね。
その後、小数点を習ってからはプログラムにも活用し、より細かい制御ができることに気づきます。
楽しみながら直感的に算数について理解を深めることができるんですよ。

――実際にプログラミングの授業を始めてみて児童・生徒の様子はいかがですか?

丸岡:プログラミング授業はペアやチームを組んで行うため、最初は「うまく協力し合えるかな?」と危惧していましたが、最終的には周囲と一緒に楽しみながら取り組む姿が見られました。

北田:チーム分けは担任が決めています。
出席番号順でペアを組む場合もありますが、クラスの雰囲気や状況を見ながら男女がペアになるよう組んだり、修学旅行前であれば修学旅行のグループでチームを組ませる場合もあります。
プログラミングの授業がクラス運営にも一役買っているんですよ。
「友達や周りの人と協力しながら考えるので、今までよりみんなと仲が良くなった」という感想も聞かれました。

小坂:プログラミング教育は、学びに対する意欲や好奇心を広げる力を養うだけでなく、人と協業して新しいものを生み出す力が育まれるのも特徴です。
新学習指導要領では「思考力・判断力・表現力の育成」が課題になっていますが、思考力は算数でも国語でも培うことができます。
いわば、ここで求められている思考力とは、新しいものを作り上げていく力のことなんですね。
それを自らの力で取捨選択する判断力と、その取捨選択したものを人に理解してもらうという表現力、この2つの総合力を育むのが、本来のプログラミング教育の目的です。
そういったプログラミング的思考を取り入れることで、他の教科ももっと深く学習できる効果が生まれると思っています。

北田:おっしゃる通りですね。子どもたちがプログラミング授業を体験したことで、それ以外の授業でも、分からないことを友だち同士で相談することが増えているようです。
教える過程が先生から子どもへの一方通行ではなく、いろいろな方向から教え合っていくことが広まっているようです。

準備期間を経て、いよいよプログラミング教育必修化に

――2020年は新型コロナウイルスによる休校の影響も出ていると思います。

北田:今年はコロナ禍もあって、集団づくり、人間関係づくりをするべき時期にそれができなかったこともあります。
プログラミングの授業は2学期から実施する予定ですので、子どもたちが話し合い協力しながら、仲間と一緒に創造する力を育んでいってほしいですね。
授業を受けた子どもたちからは「今日はできなかったけれど、次は絶対クリアしたい」という声も多く、前向きに頑張る意識が着実に芽生えています。
今までなら、できなければ諦めて終わるところを、次こそは達成したいと思うその気持ちがさまざまな教科にも広がっていき、良い影響を及ぼすことを期待しています。

丸岡:今年度から、新学習指導要領が実施されています。
プログラミングの授業も、私から担任の先生が主体となって授業を実施していきますので、より一層教科横断での、プログラミングの授業が可能になると考えています。
またその中で、プログラミング教育の違った一面や子どもたちの学びに対する態度など、新たな一面がみられると思いますので、その様子などを取り入れながらよりよいプログラミング教育を実施していきたいですね。

小坂:プログラミング教育を小・中学校で学ぶことで、子どもたちが将来を考えた時に、さまざまな視点から多角的に物事を考えられる力を育てていきたいと思っています。
子どもの頃に遊びながら学んだことが、きっと大きな力になってくれるはず。
今後も交野市の先生たちと一丸となって、子どもたちの学びを支えていきたいですね。